日本の猫は「外来種」か?

沖縄や南西諸島の猫問題に関連して、「猫は在来種だ!」「猫は外来種ではない!」という言い方を見かけます。日本にはツシマヤマネコとイリオモテヤマネコという在来種がいますが、ペットにされる猫は、すべて外来種です。外来種の概念にはいつ入ってきたかは関係ないので、長年いるから外来種ではないという考え方はしません。

日本にいる猫は何種類?

日本にいる猫は、3種類です。在来種のツシマヤマネコとイリオモテヤマネコ、外来種のイエネコです。

ペットやそれらが野生化した野良猫などは、分類学的には「イエネコ(学名:Felis catus)」になります。

イエネコの祖先は中東のリビアヤマネコ

科学の発展によって、現在ペットになっているイエネコの祖先の研究もすすみました。

Science誌に掲載された論文「The Near Eastern Origin of Cat Domestication | Science」によれば、世界各地の猫1000匹弱を分析した結果、現在のイエネコは約1万年前に中東のリビアヤマネコ(Felis silvestris lybica)が家畜化されたもので、農耕文化の伝播および愛玩用として広まったことがわかっています。

分析結果読みましたが、各地のイエネコはみなリビアヤマネコから分岐したというわかりやすい結果でした。

日本にいる猫はいつ頃入ってきたか

ツシマヤマネコとイリオモテヤマネコは在来種ですが、日常生活で出会う機会はほぼないので、ここでは日本にいる猫=イエネコとして話をすすめます。家畜化された猫は、一体いつ日本に入ってきたのでしょうか。

例えば近年、在来と考えられてきたクサガメは、実は外来種なのではという説が有力になってきています。

イシガメの化石は見つかるがクサガメは見つからない、文献に初めて登場するのが江戸時代といった状況証拠が見つかっています。同様の方法で、猫がいつ日本に入ってきたかわかるはずです。

一般的に考えれば、稲作など農業の伝播とともに日本にやってきたと考えられますが、実際そうなのでしょうか。

  • 宇多天皇の日記「宇多天皇御記」に登場する黒猫
  • 清少納言の「枕草子」に登場する一条天皇の猫「命婦の御許(みょうぶのおとど)」

今日本最古と考えられている猫の化石は、長崎県にあるカラカミ遺跡で見つかったイエネコの骨です。従来、文献では平安時代の8世紀、化石では鎌倉時代が最古だったものが、一気に弥生時代に遡ったことになります。

勝本町のカラカミ遺跡で、日本最古のイエネコの骨が発見されたことが確実になった。2011年の壱岐市による発掘調査で約2千年前の弥生時代後期半ば(紀元1~3世紀)の遺構から発見された1882点のうち、723点の分析が奈良文化財研究所で行われ、このうちの1点がイエネコの橈骨(とうこつ=前腕の骨)であることが判明した。今後、別の研究機関で科学的な年代測定が実施されてから、10月にも正式に発表されるが、日本のイエネコの起源がこれまでよりも500年程度も遡る、歴史を塗り替える極めて貴重な発見となる。


発掘されたイエネコの骨は、現在検査を行っているため、一支国博物館に展示はされていないが、カラカミ遺跡を紹介する常設展示のコーナーに、写真と「歴史を塗り替えた日本最古のイエネコの骨」という解説プレートが置かれている。


これまで各種文献から、イエネコの伝承は8世紀と考えられており、出土例では神奈川県鎌倉市の千葉地東遺跡など2か所から、13世紀(鎌倉時代)の骨の発見が日本最古の事例だった。近年の発掘調査でネコの足跡がついた6世紀末~7世紀初頭の須恵器の発見により、イエネコの起源が古墳時代まで遡ることが推定されていたが、今回のカラカミ遺跡からの発見で、弥生時代からイエネコが飼われていたことが判明した。

判明!!日本最古のイエネコの骨 「カラカミ遺跡」遺構から発掘 10月にも 正式発表 | 【公式】壱岐新聞社

日本にいる猫は外来種

結論から言うと、日本の猫は外来種です。日本の猫が外来種であることは明白なので、「日本の猫は外来種ではない」という人がいたら、そのほかの主張も怪しいと思ったほうが良いでしょう。

外来種の定義を見てみてみましょう。「生物多様性国家戦略2012-2020」にもとづいて国が策定した「外来種被害防止行動計画」では、外来種の定義を以下としています。

外来種の定義

導入(意図的・非意図的を問わず人為的に、過去あるいは現在の自然分布域外へ移動させること。導入の時期は問わない。)によりその自然分布域(その生物が本来有する能力で移動できる範囲により定まる地域)の外に生育又は生息する生物種(分類学的に異なる集団とされる、亜種、変種を含む)。

「外来種被害防止行動計画」用語集

海外種が家畜化されたイエネコが日本に入ってきたわけですから、日本の猫は外来種です。また「導入の時期は問わない」とあるように、長い間いるからもう外来種ではない、という考え方はしません。

ところで、外来種問題は日本に限らず世界的な問題です。日本も締結している国際条約「生物多様性条約」では外来種をどう定義しているでしょうか。

2002年に採択された「外来種の予防、導入、影響緩和のための中間指針原則」では、外来種について以下のとおり定義しています。200国弱が締結した国際条約の共通認識として、導入時期は特に触れられていないのです。

用語定義
alien species(外来種)過去あるいは現在の自然分布域外に導入された種、亜種、それ以下の分類群であり、生存し、繁殖することができるあらゆる器官、配偶子、種子、卵、無性的繁殖子を含む。
invasive alien
species(IAS, 侵略的外来種)
外来種のうち、導入(introduction)及び/若しくは、拡散した場合に生物多様性を脅かす種
introduction(導入)外来種を直接・間接を問わず人為的に、過去あるいは現在の自然分布域外へ移動させること。この移動には、国内移動、国家間または国家の管轄範囲外の区域との間の移動があり得る。
生物多様性条約における外来種関係の用語定義

なぜ「長い間いるから猫は外来種ではない」と主張する人がいるのか

猫が外来種問題として扱われることに納得できない人たちが「長い間いるからもう外来種ではない」と誤った主張をすることがあります。

これには、外来生物法では実務上、特定外来生物の対象を「明治以降」に限定しているため、あるいは「帰化種」という概念があることが考えられます。

外来生物法の方は、開国した明治以降大量の外来種が入ってきたこと、江戸時代など移入の経緯がわからないものが多いことがその理由です。

特に植物では、経緯はわからないけれども、野生化した外来の植物がたくさんあって、これらを「帰化植物」と呼ぶことがあります。

しかし、外来種/侵略的外来種の関係でいえば、外来種のうち侵略性がないものとみなせばよいので、既存の外来種の概念に含まれていると考えれば良いでしょう。

猫の場合は侵略性があるわけで「帰化植物」的概念にも当てはまらないと言えるでしょう。